天童荒太 『悼む人』

e0028123_2022411.jpg奇をてらわない等身大の評論が良かったノンフィクション作家・上坂冬子さんが亡くなってしまったことを惜しんでいたら、忌野清志郎が亡くなった。 彼の出身地に近い国分寺市と国立市を結ぶ「たまらん坂」という坂にちなんだ歌をうたっていたということで、今はこの坂の角に、おびただしい数の献花が供えられて、来る人も絶えない。

亡くなった方への想いを表現する「悼む」とは何なんだろう。 葬儀や告別式は残った近親者の事も含めた”ならわし”のようにも思えるが、「悼む」とは、あの世に行ってしまった者に対する”より純度の高い思い”のような気がする。

地にひざまずき、右手を頭上に挙げて空中に漂う何かを捕らえるように自分の胸へ運ぶ。 左手を地面すれすれに下ろして大地の息吹をすくうかのように胸へ運び、右手の上に重ねる。 目を閉じて、何かを唱えるように唇を動かす・・。 

第140回直木賞受賞のこの小説の主人公・坂築静人は、新聞などの報道を手がかりに、事故や事件に巻き込まれて命を落とした人々を亡くなった現場で「悼む」ため、全国を放浪していた青年だ。 こんなテーマと主人公が登場する話しは聞いたことがない。 しかし、余命6か月を宣告されたつれあいと最期の時間を過ごすため、長年に渡って大切にしてきた仕事を退職し、その死を看取った仲間の話しを聞いたとき、人生の時間の使い方についての貴重な話しを聞いた気がした。 もしかすると、この作者の想いもその辺りなのかもしれない。
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by Hhisamoto | 2009-05-16 19:45 | ■えせ文化人(本、映画・・)
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