藤沢周平 『海坂藩大全』 小川のほとり

e0028123_2137960.jpg「田鶴のことは、お前にまかせる」 兄の朔之助が新蔵に言い放つ。 新蔵の陰で悲痛な泣き声を上げる妹の田鶴・・・。

新蔵は奉公人だが、朔之助・田鶴兄妹と同じ屋敷で生れ、三人の子供は兄弟同様に育った。 幼い頃から気性の激しい田鶴は、兄の言うことを聞かずに川遊びの中洲に取り残され、命の危ういところを新蔵に助け出されるなど、周囲の者をはらはらさせる存在だった。 田鶴は新蔵を慕いながら大人になっていく。

新蔵も少しずつ大人の分別が加わってくると、自然に自分の身分を認識するようになる。 朔之助・田鶴兄妹に対しても歯がゆくなるほど態度も物言いも慎み深くなる。 気持ちは昔のままだったが、新蔵は二人と自分との間に越え難い身分の差があることを次第にわきまえ、その垣根を越えることはなくなる。 新蔵は田鶴への想い焦がれを意中に秘め、二人を支えながら生きていく。

そんな田鶴が嫁いだ士分の男を、兄の朔之助が斬らねばならぬ事態となる。 田鶴を想う新蔵は、追手となる朔之助の供を願い出る・・・。

* * * * *

「蝉しぐれ」など、藤沢周平作品をこよなく愛する社長から譲り受けた本 『海坂藩大全』 上下巻。 この「小川のほとり」も、海坂藩という架空の城下町で繰り広げられた話しにまとめたあげた短編の一つ。 誰しも抱くような心の奥の琴線に触れてくる。 描かれる生き様や癒される人間模様は、長編であるよりむしろ「短編」を集めた方が胸に響くと思えてしまう。 これも藤沢周平ならではの筆力だろうか。
[PR]
by Hhisamoto | 2010-11-10 21:31 | ■えせ文化人(本、映画・・)
<< 驚異のボクサー「マニー・パッキャオ」 「マトンとポークのカレー」 b... >>