『さよならドビュッシー』 中山七里

e0028123_18333739.jpgミステリー小説を軽く見ていた私は、この小説のエンターテイメントとしての質の高さに驚いた。
作者は考えている。 読者の想像の上を行くために。
作者は工夫している。 読者の期待の上を行くために。

たとえば闘うピアニストの姿が描かれているこのくだりなど、想像もしていなかった迫力がある。

「指に障害があるからピアノを満足に弾けない? 好奇の目に晒されるから声を上げるのが嫌だ? やっぱりあたしは最低の卑怯者だ。そんなのは闘いを避けるための口実に過ぎない。」 「全ての闘いは詰まるところ自分との闘いだ。そして逃げることを覚えると余計に闘うのが怖くなる。情けなさに手先が冷えた。恥ずかしさに胸が灼けた。」

・・この小説が、第8回「このミステリーがすごい!」 の大賞受賞作だ。
私はミステリーにも人間味を十分に表現した内容の濃さがあることを感じた。
そして、まもなく中学生になる自分の子どもにも読ませてみたくなった。

「空席が目立とうと満席であろうと君が心掛けなきゃならないのは、その音を誰に向かって飛ばすかだ。 審査員のお歴々は二、三列目に陣取っている。 君の指に注視し、奏でる音に神経を集中させている。 しかし君は彼らではなく、一番後ろの席に座る人に向けて弾くんだ。 いいかい、試験を受けに来たんじゃない。 君は、君のピアノを聴くために遠くから足を運んで、それでも最後列になってしまった人に自分の想いを伝えるため、ここに立つ - そういう風に思うんだ」
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by Hhisamoto | 2011-08-03 20:31 | ■えせ文化人(本、映画・・)
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