小説への感情移入

主人公が女性であっても感情移入できる話しがある。
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感情移入できることが、小説の面白さを表すごく単純な尺度のひとつであるとすれば、近く映画にもなる山田宗樹の『嫌われ松子の一生』という、川尻松子の数奇な生涯が描かれている小説に、私はしっかりと感情移入ができてしまう。 

主人公の松子が、国立大を出て中学の教師になるところから始まり、トルコ嬢、殺人犯、最後は死に至ることになるが、こういった人生の流転は、自らが招く必然ではなく、ちょっとした歯車の狂いやボタンの掛け違いから起こるのではないかとさえ思えるような、不思議なスリルを与えられて一気に読み進んでしまう。 小説だから描けるのではなく、だれにでも起こりうる可能性がある、という冷めた感覚が読者の背筋を刺激する。 甥っ子の視線と松子本人の語り口が交差するプロットも、さらに時の流れを感じさせていい。 
ただし、自分に元気がない時は、少々重く感じてしまうかもしれない。


e0028123_0195754.jpg小池真理子が直木賞を取った作品『恋』という小説がある。
学生運動が盛んだった1970年代が舞台の官能的な恋愛小説であり、表現も文学的で豊かだと思うが、私は感情移入ができずに、冷静に最後まで読み終えた。 

学生だった矢野布美子が、大学の助教授・片瀬との間に持つ恋愛感情。 その妻である雛子との風変わりな関係。 そして布美子が起こす事件と、25年後に死を迎えることになるまでの時の流れの起伏が叙情的な作品だ。 避暑地のハイソサエティな風景も美しく想像できるし、高揚する恋愛感情などの心理描写も巧みだが、私のような男性読者が求めている感覚とは異なる気がした。

小池真理子作品では、『蜜月』という天才洋画家の女性関係を描いた作品も読んだ。
私にはこちらの方がしっくりときた。


e0028123_0174935.jpg同じく恋愛小説では、江國香織の『東京タワー』を読んだが、やはり私には感情移入はできなかった。 もっとも時代背景がかなり若者風であり、年上女性と付き合う大学生の感覚まで素直に私がフィードバックできなかっただけかもしれない。 

すでに映画化されたが、ほんとうにうける映画が作れると思ったのだろうか。 きめの細かい心理描写がちりばめられた恋愛小説を、2時間の低予算映画に収めて見せようとする魂胆は、さらに理解できない。

もしかすると、主人公が女性であっても感情移入はできるが、作者が女性だと、無粋な男性読者には理解できない細やかな何かがあるのだろうか? 
やはり私のお勧めは『嫌われ松子の一生』です。
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by Hhisamoto | 2006-04-14 23:18 | ■えせ文化人(本、映画・・)
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