重松清 『ナイフ』

e0028123_23331768.jpg本の題名の『ナイフ』は5つの短編の1つだが、この小説は別々の五話で一冊の本に成り立っていると思う。 一話づつでは消化不良だ。 五話を読んで気持ちが満たされるバランスを得ることができる。

「あんた、今日からハブだから」
「一学期の期末試験を数日後に控えた七月初め、あたしは一夜にしてハブになった。 もちろん、ヘビになったわけじゃない。 村八分のハチブを略して、ハブ。」 という冷たい憤りを感じるイジメ話し『ワニとハブとひょうたん池で』から始まって、『ナイフ』、『キャッチボール日和』、『エビス君』、『ビタースィート・ホーム』の五編からなる。

少年少女の「イジメ」を中心にした心の葛藤がテーマだが、イジメは子供が単独で起こしている問題ではない。 大人社会の歪みなどを投影したり、大人との係わりが背景にあるのだと暗に訴えている気がしてくる。

前編の『ワニとハブとひょうたん池で』、『ナイフ』を読んだあたりでは、イジメのいやらしさに忸怩たる思いが集積するばかりで、なんともこのままでは眠れない、といった気分にさせられる。 『キャッチボール日和』では、甲子園のヒーロー荒木大輔の名を自分の息子に与えた親の思いが描かれている。

   「息子が生まれたら大輔と名付けよう!」そんな約束をしたのでした。 
   まったくバカです。 

象徴的なこの一節。 そしてこの大輔が徹底的にいじめられる。
しかし、思いの一部が晴れる結末もある。
39勝49敗で引退試合を迎える荒木大輔とのオーバーラップ。
幼い少女の精一杯の表現力。

『エビス君』に至って、やっと思いが晴れる。
イジメも友情も紙一重、という話しに胸をなでおろす。

『ビタースィート・ホーム』は、まさに今、私が置かれているような世代と環境だ。 子を持つ親と教師が諍う様子を描いているが、親が子を思う気持ちは強い。 「勝てるわけないよ、教師なんて、ぜったいに」というフレーズが出てくる。 いろいろな制約を受けている現在の教師は、どうやって子供たちへの思いを表現するのだろう。 親が子供を守りたいのなら、親は教師のことも守る気持ちが必要なのではないだろうか。 怒りをこめて学校に怒鳴りこんだ、という武勇伝はもう古い。 親と教師で子供を守っているはずだ。 意識を変えていく必要があると私は思う。
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by Hhisamoto | 2006-07-10 21:41 | ■えせ文化人(本、映画・・)
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