『赤めだか』 立川談春

e0028123_21381841.jpgこの本の一番最後の章「誰も知らない小さんと談志」が泣ける。

「そんなことはしなくていい。 あのな、談志は一家を構えて、たくさんの弟子をとって、独立して立派にやっている。 今更俺のところに来なくてもいい。 あいつは・・・、今のままでいいんだ」 柳家小さんの丸い仏様のような柔和な顔が浮かぶようだった。


立川談春という人の奇特さは、立川談志の弟子であるにもかかわらず、なんとこの柳家小さんと桂米朝という二人の人間国宝に稽古をつけてもらっていること。 (それぞれの稽古に至る場面が妙におもしろい) 思い切りのよさとまわりの人間に助けられ、老齢の師匠を担ぎだしてしまう若気の至り。 スリリングな感じさえする!


それから、二ツ目に昇進する際に黒紋付、袴、名入りの手ぬぐいを作らなければならなくなったが、手元には5万円しかない。 この時、談春は競艇でひと儲けして一式を作ろうと考え、戸田競艇場に行くが、男度胸の一発勝負ができなくなるくだりがある。 このシーンがまた臨場感にあふれている。 

勝つことを意識した勝負に、喉がヒリつき、目がくらみ、船券を買いに体が動かない精神状態におちいるのだ。 レース場のスタンドの椅子に座ったまま、六日間連続で朝の10時から夕方の4時まで自問自答を繰り返す。 戦って負けたならまだしも、戦うことすらできない不甲斐ない自分と戦っていたのだ。 もう、博打で儲けるとか着物を買うとかはどうでもよくて、とにかく5万円分の船券を買うことが本人にとっては重要なことになっていた、というこの気持ちはすごーく分かる。

結局、この談春、70倍の大穴を当てて40万円の配当を手にする。
あまりのことに競艇場のトイレで吐いてしまうが、腹一杯の焼肉を食べて、吉原に行く。 翌日、一年分溜まった家賃30万を払うことになり、手元にはまた5万円しか残らなかったので、再び戸田競艇場へ出陣。 5万円の一点勝負の結果はお約束通りのハズレをくらい、父親の前に土下座して着物を買ってください、とお願いする・・・

このあたりは落語そのもののようでおもしろい。
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by Hhisamoto | 2008-07-02 21:37 | ■えせ文化人(本、映画・・)
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