宮部みゆきの「火車」

この作品が、宮部みゆきの最高傑作だと思う。

e0028123_027198.jpg長い廊下の扉を正面からバンバンと開け放っていくような展開は、ミステリーでありながら小細工のない小気味よさを感じる。 10代で読んだ松本清張の「点と線」の記憶がよみがえってきたのは、新鮮な思いを呼び起こすほどのパワーがある、ということだろうか。 あるいは、 松本清張作品に肩を並べるほどの小説であるということだろうか。

宮部みゆき作品の特徴の1つは、「子供」と「幽霊」の存在にあると思う。
「火車」においても、智という刑事に育てられるいたいけな子供がいる。 宮部みゆきという人は、子供に対して心のこもった目を向けている人なのだと思う。 大人とは別の崇高さを持った存在として見ていることがにじみ出ている。 この小説の中でも、智の存在は話しのプロットにはさして関係ないが、何か重要なメッセージがあるように思えた。

もう1つ面白い点は、犯人を追う刑事の本間は、公傷を負って休職中の身であり、仕事ではなく個人の思いによって行動していることだ。 それも、憎しみや正義感といったモチベーションとは別の次元の思いを抱いている。 また、行方不明となった幼なじみの身を案じて、本間刑事と行動する自動車修理工の本多保の存在もまたユニークだ。 そして、本間は追い詰めた犯人像に対しての最後のカードを保に引かせることになる。

あとがきで、佐高信が絶対に直木賞を取ると思ったと語っているが、実際のところは山本周五郎賞受賞作となっている。 その93年の直木賞は、上期が北原亞以子 『恋忘れ草』 、高村薫 『マークスの山』 、下期が大沢在昌 『新宿鮫 無間人形』 、佐藤雅美 『恵比寿屋喜兵衛手控え』 となった年だった。 この夏、2000年直木賞受賞作である山本文緒の「プラナリア」を読んで、直木賞の選考基準にもばらつきがある気がした。 かっての山本周五郎のように直木賞を辞退する人もいることだし、私も作家や作品の肩書きにとらわれずに本を読むことにしよう。 
ちなみに宮部みゆきは99年に「理由」で直木賞を受賞している。
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by Hhisamoto | 2005-09-11 23:40 | ■えせ文化人(本、映画・・)
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