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『マイノリティーの拳』 林壮一

e0028123_7543848.jpg海外の名試合、名ボクサーを語り、日本に紹介してくれている人といえばジョー小泉さんが想い浮かぶが、この林壮一さんもまたかつての名選手を採り上げてくれている。 ・・しかもまったく別の視点から。

カス・ダマトという極めて人間性の高い名トレーナーに育てられたホセ・トーレスとマイク・タイソンの話しは、人間の根っこの部分を指して話しをしているような奥深さがある。 育った環境と育てる人間との出会いから話しは始まり、貧困と社会のヒエラルキーを越えることができるか否か、というまさに命懸けのレースの話しであり、もはやボクシングというスポーツの話しではない。

林壮一さんの著書の多くが、社会の構図の中の底辺を見つめたり、不条理な運命のくじを引いた人間にフォーカスする。 それらは、時に読み手の気持ちに重くのしかかることがある。 しかし、全体の中の一部分に光が見えることがあり、読み手はこの一筋の光明に救われることになる。 この本の貴重な光の部分はジョージ・フォアマンの話しにほかならないと思う。

たえず空腹を抱えていたフォアマンは、自らの行状が犯罪と感じることがないほど、殺傷事件が日常の光景となっている荒んだ街の少年だった。 しかし、まさに下水管の下の水溜りを転げまわる生活の中から立ち直り、職業訓練校へ入隊し、ボクシングとの邂逅がある。 メキシコ五輪での金メダル、人種差別の中でのプロボクシング転向、世界チャンピオンへの道、モハメド・アリとの闘い・・。 常識的には、ここで話しが終わるが、フォアマンの場合はさらに奇跡的な出来事が起こり人生がさらに展開していく。

林壮一さんという作者は、光と影の「影」の部分にしっかりと見据える方で、正義感の強いジャーナリストにある気質を持ち合わせているように思える。 怪我でボクシングに打ち込めなかった学生時代の悔しさについての触れているが、それだけをバネにしているとも思えない。 きっと自らの探求心をかき立てる何かを見出して、それに向かっているのだと思う。 ボクシングを起点にしている方には大きな関心が湧く。
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by Hhisamoto | 2011-09-11 07:54 | ■えせ文化人(本、映画・・)

『オバマも救えないアメリカ』 林壮一

e0028123_7473866.jpg一部の富裕層と一般的教育も受けることができない多くの貧民層が存在するアメリカ。 大きな格差のあるピラミッド社会の問題は、まさに明日の日本を予言していると思える。 著者の林壮一さんはそうした状況のアメリカに身を置いているルポライターなので、彼のルポには切迫感を強く感じる。

「ロスアンゼルス国際空港からハイウェイ105を7マイル弱、東に進みセントラル・アベニューで高速を降りると、WATTSの地名が書かれた小さな看板が出てくる・・」このセントラル・アベニューこそは全米でも屈指の危険な貧民街。「しょっちゅう殺人事件が起こり、黄色い肌の人間などは身ぐるみ剝されてに決まっている」街だそうだ。

1980年代後半に私が南カルフォルニアに住んでいた時、道に迷って高速を降りてこのWATTSに迷いこんだことがあった。私が乗っていたオンボロのビュイックがもしこの場でエンストでも起こしたらどうしようか、とハラハラしながら街を通った経験がある。WATTSのことはよく知らなかった私でも、その街の異様な雰囲気にすぐに気付かされるものがあるほどの恐怖を感じる街だったことを覚えている。

「ゲットー(貧民窟)で育つと教育が身に付かないだろう。手っ取り早くカネを稼ぐ方法として、いつの間にか犯罪に手を染めている。罪の意識が無いうちに、どんどん深みにはまっていくのさ・・」  筆者は、こんな街で生まれ育つ人種にもスポットを当てて、黒人のオバマ大統領がどれほど期待されているか、などをルポしている。

また、ボクシングが好きな私としては分かりやすい、元ジュニアフライ級の世界チャンピオンで、このクラス最強とうたわれたマイケル・カルバハルというメキシコからの移民3世の生きザマを例に出している。 世界で初めて軽量級にして1試合のファイトマネーが100万ドルを超えた伝説のボクサーであり、2006年に国際ボクシング殿堂入りを果たした人物である。 しかし、そのカルバハルでさえも酒の力を借りずに生きていけない現実が書かれている。
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by Hhisamoto | 2011-09-11 07:47 | ■えせ文化人(本、映画・・)

東洋医学が教える脳の「養生法」 酒谷薫

e0028123_21314578.jpg誰でも知っている「東洋医学」という言葉だけれど、その実態についてはほとんど知らないことに気づかされる。身近にある医学の常識を疑ってみる、ということに積極的な私には興味深く読むことができた。

たとえばこの本にはユニークで面白い概念がたくさん紹介されている。「一般に西洋医学では、病気でなければ健康、健康でなければ病気というように、二律背反的に考える。 一方、東洋医学では健康の程度には高い状態から低い状態まであって、それが低下すると病気の状態に至るというように連続的な見方をする。」そして、この低い健康状態のことを未病という言葉で表すという。

さらに人間の身体の概念に「脳」という臓器がなく、五臓すなわち「心・肝・脾・肺・腎」と六腑「胆嚢・胃・小腸・大腸・膀胱・三焦」が要になっているそうだ。では、脳はどこにいってしまったのかというと「身脳一如」といって東洋医学では脳の機能は五臓に分配されていると考える。そして、心は「喜ぶ」、脾は「思う」、肺は「悲しむ」、腎は「恐れる」、肝は「怒る」など、臓腑はそれぞれの感情を生み出すという。

ボクシング仲間でもある脳神経外科医の酒谷先生の書かれた興味深い著書だが、難をいえば話題が広範囲に渡りすぎていて、おそらく書籍の構成ページ数の兼ね合いで短くまとめてしまった話しも多いのではないか、とも思えた。 ぜひ、さらなる続編を書いていただきたい。
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by Hhisamoto | 2011-09-06 21:32 | ■えせ文化人(本、映画・・)

『リング』 百田尚樹

e0028123_14153719.png「ヨシオ、君はこの試合に勝利することで、敗戦で失われた日本人の自信と気力を呼び戻すのだ」 カーンは白井義男に自らのすべてを注いで世界チャンピオンに育てた。世界タイトルマッチのチャンスを与えたハワイのプロモーター・日系二世サム一ノ瀬の日本に対する想い。また、晩年に重い認知症を患ったカーンに家族として献身的に尽くした白井義男夫妻の心。

・・そして、ファイティング原田の登場。
同時代の怪物たちと、彼らに立ち向かうサムライたち、パスカル・ペレス、ポーン・キングピッチ、エデル・ジョフレ、矢尾板貞雄、関光徳、海老原博幸・・。日本の高度成長期のボクシングは、世界チャンピオンが8人しか存在できなかった時代。現在とは比較にならない希少価値があり、テレビの視聴率が50%を超えた時代だ。

この本はノンフクションといってもストーリーと成り得る時代の流れがあり、そのバックグランドに存在する人としての逸話が詳細に語られる構成に引き込まれる。全編どこをとっても面白く読めるので、どのかの部分だけが印象に残っているとは言えない。私にとってはすべてが面白い。

私がボクシングジムに通っていた1980年前後、TBSのボクシング番組の解説は郡司信夫さんと白井義男さんの名コンビで決まっていた。子どもだった私の頭に歴史的な記憶が残るのは、大阪で開催された万博(EXPO70)からであり、この本に描かれているようなボクシングシーンを見ていない。目にしていたのは、貫録のついた体をゆすって歩くかつての名選手やボクシングジムの会長たちだった。著者の百田尚樹さんは私より3歳年長の方なので、私の知りたかった時代をこの本で十分に語ってくれている。
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by Hhisamoto | 2011-09-03 14:15 | ■えせ文化人(本、映画・・)