フランス文化の現在が生々しく感じられる本。
1998年の著書なので若干時間は経っているが、けして色あせを感じさせないほど鋭い切れ味の文章となるのは、著者・宇田川悟さんが日本人としての意識を人一倍強くもってをフランスに在住しているからではないだろうか。 宇田川悟さんといえば、フランス食文化についての造詣が主な彼のフィールドだが、そこかしこに出てくる彼の細かい所見も興味深い。 例えば、「フォアグラこそ農家の心意気」という章で、フォアグラ農家をたずねて村道を進んでいる時のくだりだ。 道に迷うことなど不思議なくらい、フランスの道路状況の良さにはいつも感心させられるという。 どんな地方のいかなる小さな村道を走っても、道路が完全舗装されていて、各種標識が見えやすく明快で実に爽快だという。 (そして、著者が考えるその理由がおもしろい) 中央でも地方でも、都会でも田舎でも、政治家だろうが公務員だろうが、トップも下も自分でハンドルを握って運転するからだという。 行政に携わる彼らは道路状況が悪ければすぐに改善しようとする。 自分で運転し、自分の目で道路を把握するというリアリズムが、フランスにはある。 どこかの国のように、位人臣をきわめた人間が、公私ともに車のバックシートにふんぞり返っていると、道路も標識も永久に整備されないというのである。 クリスタルガラスのバカラについての記述も興味深い。 ロレーヌ地方のバカラ村で作られるこのガラス工芸がなぜ発達したのか。 もちろん、ガラスづくりに不可欠な素材である燃料用の森林木材、珪素を多く含んだ砂、苛性カリをつくるためのの灰になる羊歯が豊富だったことなどがあるが、それ以上に、創業以来工場従業員の福利厚生にたゆまぬ力を注いできたという。 「福利厚生」という、手工業を支える平凡で不可欠な努力に着目していることがおもしろい。 高度な進展を支えるものは、案外このような目立たない労力にあるのかもしれない。 その他、フランスパンと総称される「バゲット」の品質低下になげく話し。 日本やアメリカを含む諸外国の人間が感じるフランス人の高慢さや接客などのサービスの質の低さの話し。 トリュフの近年収穫事情など、現在のフランスが人間味をもって語られている。
by Hhisamoto
| 2007-11-04 22:15
| ■えせ文化人(本、映画・・)
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プロフィール
住み家: 東京都国分寺市
生まれ: 1959年 しし座 大切にしている言葉: 「吾、唯足るを知る」 探しているモノ: おいしいカレーライス 求めているモノ: ホンモノ、魂のある言葉 以前の記事
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